大判例

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大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)686号 判決 1971年10月28日

控訴人

津田度祐

代理人

金子新一

他一名

被控訴人

村井栄助

代理人

平田武義

主文

原判決を取消す。

本件訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は先ず主文同旨の判決を予備的に「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上・法律上の主張及び証拠関係は次に附加するほか原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。

第一、控訴人の主張

本件共有物分割請求の対象たる土地建物はすべて訴外亡津田クニの遺産に属するものであるところ、同人の相続人である控訴人及び訴外村井義典間において未だ遺産分割の協議は成立しておらずまた家庭裁判所の審判もうけていない。かように共同相続人間における遺産分割手続が履行される以前に民法二五八条に基づく共有物分割の訴を提起することは許されないものであり、その場合共同相続人の一人から共有持分を譲受けた第三者においても同様であると解すべきであるから本訴は不適法なものとして却下さるべきである。

第二、新たな証拠<省略>

理由

一、本件土地が元訴外亡津田クニの所有であつたところ、昭和三一年九月四日同人が死亡したため養子である控訴人と訴外村井義典が各持分二分の一を以てこれを相続したこと、本件建物が元訴外亡津田義一の所有であつたところ、昭和二五年一月一三日同人が死亡したため妻である右クニ、養子である右義典及び控訴人が持分各三分の一を以て相続し、次で昭和三一年九月四日右クニの死亡によりその持分を右義典と控訴人が各六分の一宛相続し結局本件土地建物は控訴人と右義典が各二分の一の持分を有する遺産であつたこと、右遺産の分割につき当事者間に未だ協議が調つていないこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、被控訴人が昭和三四年一一月一四日右義典から本件土地建物の各二分の一の持分権の贈与を受けたとの点については、被控訴人主張のとおりの贈与がなされたとして控訴人の本訴が不適法であるとの当審における主張について考える。

二、本訴が民法二五八条に基づく共有物分割の訴であることは被控訴人の主張するところであり、本件物件が亡津田義一、同津田クニの遺産であつて共同相続人間に分割の協議未了であることは当事者間に争いのないところである。

右のように共同相続人間に遺産分割の協議が調わないときは、共同相続人は民法九〇七条二項、家事審判法九条一項により家庭裁判所に遺産分割の審判の申立をすべきであつて、未分割の遺産の共有関係が通常の共有の如く私的取引によつて生じたものではなく一定の血縁等身分関係に基づいて必然的に生ずるもので、もともと遺産分割を予定した過渡的時点に対処する暫定的な法的措置であつて民法物権編に規定する共有とは趣を異にするものであること、遺産の分割は個々の持分の個別的分割でなく遺産全体の綜合分割であるべく、その本質は非訟事件であるから民法九〇六条に則り遺産に属する物又は権利の種類性質、各相続人の職業その他一切の事情を考慮し、当事者の意思に拘束されることなく後見的立場から合目的的に裁量権を行使して具体的に分割を形成決定する裁判である家庭裁判所の審判に内容的にも又手続的にも親しむものであること、および遺産の分割につき訴訟手続と別個の家事審判手続を設けていること、等に鑑みると遺産の分割は協議が調わないときは家庭裁判所の審判手続のみによつてなされるべく、右審判による分割以前に遺産を構成する個々の財産について民法二五八条に基づく共有物分割の訴を提起することは許されないと解するを相当とする。

三、そして遺産を構成する特定財産についてその共有持分権が第三者に譲渡されても、右譲渡によつて当該特定財産が綜合的な遺産分割の対象から除外されるとは解されない(民法九〇九条但書はかかる特定財産が遺産分割の対象となることを前提としたうえでの第三者保護の規定である。)から、該第三者も前示審判手続による遺産分割前には右特定財産について民法二五八条による共有物分割の訴を提起できないと解すべきである。

けだし当該第三者にかかる共有物分割の訴の提起を許すと遺産分割に先立つて右特定財産についての共有関係が解消され、右特定財産については遺産分割の余地がなくなることになつて、結局第三者への譲渡によつて当該特定財産が遺産分割の対象から除外されることを認める結果を来すからである。

四、してみれば本訴は被控訴人が前記村井義典から本件土地建物の各二分の一の持分の贈与を受けたとしても(更にこれが訴訟信託であるとの控訴人の抗弁が排斥されたとしても)不適法であつて却下を免かれず、これと異なる原判決は不当であるから取消すこととし訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(加藤孝之 今富滋 藤野岩雄)

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